“兵庫県西宮市鳴尾浜に一大工業港を建設する”という壮大なプロジェクトのもと、1929年に創業した東洋建設。海に囲まれた日本において、海洋インフラのスペシャリストとして数々の実績を重ねてきました。創業の地、兵庫県西宮市にある鳴尾研究所では、港湾施設の整備に役立つ土木技術を磨き続けると共に、生物が多く生息する海を取り戻すための環境技術について研究を続けています。中でもアマモという海草の研究は、東京湾大感謝祭でも好評だった里親体験イベントなどを行い、東洋建設が大切に育んでいる海の環境を守る活動のひとつとして高い成果を上げています。
揺れる海草の下で小さな魚たちが産まれ育つ“海のゆりかご”

アマモは北半球の温帯から亜寒帯にかけての沿岸に生息する海草の一種。1mほどの草丈で、水深数メートルほどの浅い砂泥地を好み、種子と地下茎によって増える植物です。アマモの群落であるアマモ場は、海中に草原のように広がって魚たちの産卵場所になるため“海のゆりかご”と呼ばれます。また、アマモは光合成で二酸化炭素を吸収する働きがあり、ブルーカーボン生態系としても注目の存在です。日本では1960年代から70年代にかけての高度経済成長期に、沿岸地域の埋め立てや海洋汚染によって数が急激に減った経緯があり、東洋建設にとってアマモ場の復活は、海洋土木工事を数多く手掛ける企業としての重要な課題でもあるのです。
アマモ場を取り戻そう! 播種シートによるアマモ場造成プロジェクト

東洋建設では、広い範囲に効率よくアマモを増やすために、種子を付着させた“播種シート”を海底に固定するアマモ場造成工法を開発しました。ヤシマットの上に乾燥防止のための水溶性高分子でコーティングした種子を付着させ、その上から不織布と金網で覆ったものをロール状に丸めて運び、海底で広げるという工法です。小さなサイズのシートは人力で作業しますが、作業船を使えば25×100mのシートも敷設できます。2001年に兵庫県の東播海岸で開始した実海域試験では、離岸堤の背後など波当たりの弱い場所なら数年で自生のアマモ場と同じくらいまで生長することが分かり、以来2018年までに全国の40カ所余りでこの工法が採用されています。東京湾では、横浜市の海の公園、ベイサイドマリーナの浅場、野島海岸などに敷設しています。
アマモを育てよう! 東京湾大感謝祭でのアマモ里親体験ワークショップ

多くの子供たちが来場する東京湾大感謝祭では、アマモが海の環境を保つために果たしている役割を知ってもらい、たくさんの海の生き物の生態系を守るために、アマモの里親になってもらうワークショップを開催しています。これは、参加者の皆さんにアマモの育苗キッドを使って種床と海水を作ってもらい、アマモの種まきをしてもらうもので、2019年の感謝祭では80名に体験していただきました。前年の感謝祭で育苗に参加し、また楽しみに来場してくださったご家族もいて、たくさんの方にアマモ育成の重要性や楽しさを知ってもらうことは、東洋建設が長期間継続してアマモの活動を行っている意義のひとつと言えるでしょう。
アマモを海へ帰そう! 感謝祭で育てた苗の移植会


東京湾大感謝祭や、アマモの苗床作りイベントなどで種まきをした苗は、冷暗所に1ヶ月ほど置いて発芽させ、栄養のある土に植え替えて育てます。秋に種まきをすると春には移植できるほどの大きさに生長し、プランターへ移植して海中へ設置する作業を行います。2019年4月に横浜市金沢区の金沢八景にて一般の参加者の皆さんと共に移植を行いましたが、前年の東京湾大感謝祭で育苗体験をした方も参加してくださり、アマモが実際に海へ帰るところまでを体験してもらいました。
我々の手で“海のゆりかご”を復活させ、たくさんの生き物たちがまた東京湾に戻ってくるように。海洋インフラを整備する東洋建設は、人間の生活を守るだけでなく、海の生き物たちの活き活きとした姿も守ることができるよう、これからも活動を続けていきます。